トルストイは、家庭も仕事も順風満帆に進んでいるとき、人生の無意味さに悩み、自殺を考えるまでになる。世界のあらゆる価値が失われ、世界は魅力を失い、よそよそしく不吉になった。この事態は、末期がんを宣告された患者にもよく起こることである。トルストイは、ついに人生は無意味であるという自分の確信が、ただこの有限な生命だけしか考慮していなかったことに由来していたことを悟る。無限なる神とつながる自分の魂を想像することで、幼少期のように生きようとする熱望がおこってきた。そして、「神をみとめることと生きることは同一のことなのだ。神は生命なのだ」との自覚に至る。
人間の認識は有限なものに限定される。しかし認識が有限であるとの精神的自覚は、無限のもの、あるいは絶対的なものを渇望する契機となる。トルストイは、自分の有限な生命が無限につらなっていることを信じることで、人生の無意味さをかろうじて押しのけた。
コメント