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2025.01.06

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nakamura hiromu

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老いと死を豊かに生きる

かつて6年間、ホスピスでボランティアを継続し、それと並行して3年間、臨床宗教師として、緩和ケア病棟で末期がんの患者さんと深く、長い対話をした。そこで何か託された感覚がある。ホスピスで驚いたのは、その静けさと平穏さだった。ほとんどの人はやすらかに亡くなる。高齢者は、生が熟して自然に死を迎えるように見えた。死は不自由な体から解放される祝祭的な出来事のように感じたこともある。しかし、そうでない人もいた。緩和ケア病棟や在宅で、末期がんの人と対話を重ねてきて、痛感したのは、日々衰弱し、衰えていく身体に意識が集中し、にわかに身体と自己を同一視するので、死の恐怖や苦悩が増幅しているのではないかという推測である。自己は意識と同一視され、死が自己の消失だと説明される。しかし日常的に経験している自己意識は身体の内部の機能とは別次元の自己という感情的出来事である。高齢者は、感情体験の蓄積という資産があり、それが死にゆく過程において、生物的な恐怖を乗り越え、神々しい印象を放つことがある。緩和ケア病棟では、衰え、滅びいく身体を抱えながら、健全な精神の力を発揮する人がすくなくなかった。死は、神秘体験と同じく、未知の体験で、われわれが馴染んできた因果法則が支配する合理的世界観の枠組みを揺り動かし、突き崩す。このようなことから、自己とはどのようなものか、感情体験は死に臨んで、どのような意味をもつのか、合理的世界観を突き崩す神秘体験とはどいうものなのか。それらを掘り下げ、老いと死を豊かに生きるための参考にしたい。そして、哲学的に可能な死後イメージを夢想したい。

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プロフィール

中村　博武

nakamura hiromu

京都大学博士（人間・環境学）1998年取得
元臨床宗教師

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